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2019 Winter

この記事は2019年2月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

働き方改革でクリアすべき
三つのハードル
人事労務が直面する課題と対応

須貝耕二

須貝耕二Koji Shugai

JBA社会保険労務士法人
代表社員 特定社会保険労務士

大手人事系コンサルタント会社2社で労務問題対応、人事評価制度の構築、退職金制度の構築支援等、数多くの顧問先に対して成果をあげる。2017年10月独立、2018年7月よりJBA社会保険労務士法人を設立し、企業規模・業種を問わず、人事コンサルティング、働き方改革コンサルティングを実施。短期集中のコンサルティングで成果をあげている。著書に『未払い残業代対策と残業代削減』(日本経済新聞出版社・共著)などがある。

社員の処遇・人材採用難・過重労働・労使トラブルなど、今日の人事・労務問題は、高度化かつ複雑化している。背景には、日本の人口構造的な人手不足問題はもちろん、組織再編やM&A、IPO等の経営課題に対する人事労務的な対応、そして「働き方改革」で大きくクローズアップされる前から、労働生産性の問題も社労士の世界では大きな活動テーマとなっている。
多様な人事労務の抱える今日的な課題は、大きく三つに整理できる。この三つはそれぞれに関連する問題でもある。

人事労務が直面する三つの課題

課題1 働き手の不足

冒頭で述べたように労働人口の減少はやはり大きな課題である。働き手の母数の減少によって、これまで日本の労働力人口の大部分を担ってきた18歳から60歳までの男性中心から、女性や高齢者、外国人の活躍が国を挙げて期待されているのは周知の事実である。多様な人材の活用は、量だけではなく質の確保のためでもあることは言うまでもない。

課題2 生産性向上のインフラ未整備

労働力の量と質の不足を補うものとして、昨今はテクノロジーの進展が挙げられることが多い。AIの進展は人の仕事を奪うとまで言われることもある。しかし、日本を代表するような大企業であればともかく、多くの中小企業の現場では人手不足が逼迫して、テクノロジーを活用し切れていないケースが多いように思う。テクノロジーを活用するには、活用するためのリテラシーや現場教育が必要だ。効率化のためのシステムを導入しても、使いこなすだけの能力が不足している組織が多いことは否めない。
実際、「2000万円かけてシステムを導入したが使っていない」という話も聞く。営業活動から発注、生産、そして請求までの一貫したシステム導入による効率化はしばしば提唱され、導入している会社も多いが、現場が使いこなすことができず、生産性が追いついていないのが現状である。「働き方改革」つまり生産性向上のインフラが整っていないために、人手不足と非効率の悪循環のサイクルから抜け出せないでいるのである。

課題3 労務トラブルとハラスメント問題

人手が不足し、生産性が上がらず、従業員が疲弊することで、トラブルとなるケースが出てくる。過重労働や残業代未払いなどのトラブルに加えて、パワハラ(パワーハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)、セクハラ(セクシャルハラスメント)、アルハラ(アルコールハラスメント)、カラハラ(カラオケハラスメント)と挙げれば枚挙に暇がない。実際に相談も増えており、その多くは現在、パワハラが占める。
パワハラ研修で感じるのは、「自分とは関係ない」と思って聞いている人がまだまだ多いように思える点だ。自身の経験や過去の価値観では通用しなくなっている。自分事として真剣に考えられるような研修を我々も考えて提供したいと考えている。また、何がパワハラで、何がパワハラでないかの区別をしっかりとつけて、上司が部下を適切に指導していかなければ、「パワハラを恐れて部下指導できない」という本末転倒も起こりかねない。今の価値教育をしっかりと受けて、部下と上司のよい関係性をつくることが生産性向上の基盤ともなる。

「働き方改革」にはユーザーの理解が不可欠

生産性や働き方に関して、よく欧米の例が引き合いに出されることがある。しかし、欧米とは異なる日本の職業文化の中に同じ価値観を導入して、その枠組みの中で働くようにするのではなく、日本では日本なりの組織や人事のあり方があると私は考える。
例えば、ドイツやアメリカは非常に割り切った考え方ができるが、日本ではそうはいかない。おもてなしや職人気質のこだわりといった日本の職業文化を踏まえた日本ならではの仕組みが必要になってくる。
それには、過重労働を美徳だとはしないが、ある程度の労働量は避けられない部分があるという「現実」を、まずは直視してもらいたい。もしも本気で過重労働を抑制したいなら、現場だけでなく、上司、経営者、そしてなによりユーザーや社会が理解を示さなければならない。宅配便や郵便局の配達時間の変更や、デパートやスーパーの元日休業の動きはその典型である。この問題に一企業だけで対応することは不可能なのだ。
「まだ、3割無駄がある」と感じている経営者も多いが、顧客との関係性を見直さなければ変わっていかないところまできているのではないか。中小企業にとっては非常に勇気が必要になる決断ではある。しかし、量から質への転換や顧客構造の改革を模索しながら、周りの理解を得、小さな一歩からでも歩を進めて行くことを始めなければならないところにきている。

「感情労働」の現実

ナッツリターン事件(大韓航空機の客室乗務員にクレームをつけて滑走路に向かい始めていた飛行機を搭乗口に戻らせた事件。2014年)は、クレームをつけたのが大韓航空副社長であったことでも注目された。この事件を契機に、家族経営への批判が高まると同時に「感情労働」という言葉がクローズアップされるようになった。
病院や介護、ホテル、デパートなど、状況にかかわらず笑顔でサービスすることを求められる労働のことを指す言葉だ。2016年ソウル市は感情労働に配慮する「ソウル特別市感情労働従事者の権利保護等に関する条例」を制定している。日本でも感情労働への悪質クレームや過重サービスの予防策を求める声が上がり始めている。

労働時間3割削減を目指して

「働き方改革」で労働時間対策を図るには、働き方の仕組みを制度化し、そのために働くルールづくりを進めていくことが必要だ。そのために最初に行うのは、「現状の把握」である。サービス残業の実態を確認しなければならないので、タイムカードの打刻との差をカメラやPCのログをとって確認する。
次に「業務実態」を洗い出す。労働時間の現状を見て例えば一月100時間などという残業がでた場合は、その人に協力してもらって一日の行動記録をとってもらい、労働時間に対する業務実態を把握する。ここで、空白の時間や打刻の時間と仕事が密着しているかどうかを確認していく。
本格的な仕組みづくりは、そうした材料を洗い出してからとなる。労働時間をそぎ落とす仕組みの中で、労働時間という働くルールを変えていく余地があるのか否か。内部要因としては、無駄な会議やミーティングの非効率、外部要因としてはオーバークオリティの仕事はないか、お客様への働きかけで改善できるところはないか等を担当者と話し合い、一つひとつ整理していく。
結果、経験則から言えば、日頃の社内外の無駄の削減で3割削減を達成された企業は少なくない。効率化がかなり遅れた会社では10年かけて達成される会社もあった。無駄が多すぎた会社は短期間でスリム化される場合もある。いずれの場合も労働時間が3割削減されれば、労働環境はかなり変化する。
意外と、社内では社員の働き方が見えてないケースが多い。見えていないものを「見える化」するのは、先入観や言いたくても言えない場合もあり、社内で行うのは容易ではない。働き方を見える化し、効率化していくために、我々外部の人間を大いにご活用いただきたい。外部から見れば「なんでそれやってるの?」ということは少なくないし、外部の人間にだから話せることもある。何より、「会社として働き方改革に取り組んでいる」というトップの意思を会社全体に浸透させることができる。ぜひ「社内で働き方改革宣言」を行って、高いモチベーションで働ける環境づくりに有効にご活用いただきたい。