トピックス

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2021 March

この記事は2021年3月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

「快適性」という
新たな価値観の協創を求めて。

脇一郎

脇一郎Ichiro Waki

JBAグループ
グループCEO 公認会計士

中央監査法人国際部にて会計監査業務に従事。その後、外資系企業日本法人の経理財務責任者や代表取締役を歴任。2006年ジャパン・ピジネス・アシュアランス(JBAグループ)に創業参画、グループCEO(2016年〜)。日本公認会計士協会常務理事、国際会計士連盟(IFAC) 企業等所属会計士アドバイザリーグループメンバー、早稲田大学会計大学院非常勤講師。

経済的便益だけでは豊かさを計れない時代に

―「快適性」「デジタル化」「SDGs」の3つを、今年のテーマとして掲げています。

私が社会人となった1993年当時、経済的な豊かさ=幸せという価値観が一般的でした。企業で昇進すれば昇給し、儲かればボーナスが出た。「幸せ」=「高い役職と経済的な豊かさ」という単一価値観の世界でした。しかし、価値観が多様化した現在、「高い役職と経済的な豊かさ」に代わる、「幸せ」の価値観は何かを考えたとき、「快適性」に思い至りました。
何が快適であるかは、当然人によって異なります。従来のように「高い役職と経済的な豊かさ」が快適と考える人もいれば、得るお金が減っても自分の時間が多いほうが快適と考える人もいます。また、会社における役職よりも、ボランティアなどの社会貢献に価値を求める人もいます。
コロナ以降、サラリーをもらって生活している人々の多くは、リモートワーク等で自由が増えた。自分でコントロールできる時間が増え、仕事のやり方も自由度が増した。生活の自由度が増せば、おのずと自分が「快適」であると思う方向に向かいます。仕事と生活が不可分となっているのが現状でしょう。そうなると、仕事も含めた「快適性」が、ますます大事になります。
かつては儲かっている会社=いい会社でした。しかし今は必ずしもそうとは言い切れません。もちろん、利益がなければ会社は継続できませんが、利益だけでは継続できなくなっている。それは、会社が社会に貢献し続けることができなければ、いずれ社会から淘汰されていく、ということが分かってきたからです。また、会社が儲かっても、成果主義という人事制度のもと、会社の利益が従業員に応分に分配されないということも分かってきたからです。その結果、従業員の会社に対するロイヤルティは以前に比べて低下し、在籍する魅力が低下した会社には、従業員が定着しなくなる、従業員がいなくなれば会社は継続できなくなる、このように会社の継続性(サステナビリティ)の問題となってきています。
そうした時代にあって、例えば、我々であればクライアントに利益ある提案をすることは当たり前で、それに加えて、我々と一緒に働いて、心地よい、快適であると思っていただけるサービスやコミュニケーションの重要性が増してきていると感じています。
社内でも同様です。相手の快適性を感じ取った上で、自分のふるまいを考えて行動すればハラスメント問題は生じません。社内外問わず、相手の快適性を読み取って行動していくことが、我々サービス業の根幹をなすものであり、考え方だと思っています。
最近はやりの「デジタル化」も同様で、快適でないデジタル化は採用されません。デジタル化はいわば、経済活動のインフラです。もう一つのテーマである「デジタル化推進宣言」はデジタルを使っていかに快適な環境をつくっていけるかを我々自身に問う意味で掲げました。お客様とともに、デジタルで快適な環境づくりを一緒に進めませんか――という問いかけです。
さらに、コロナ禍となり重要性を増すSDGs(持続可能な開発目標)は、企業価値創造の在り方を問うものです。これは、企業の意思決定の在り方にも一石を投じています。多くの会社では意思決定は、ROI(Return on Investment)がベースになっています。これまでRもIも会計上の数値(経済的便益)でしたが、これからはRにもIにもSDGs価値を入れていく必要があると思っています。
SDGsを含んだ企業価値が、株式評価(市場時価)だとすれば、時価総額とBS価値の乖離は、お金に換算できない無形の企業価値、つまりSDGsやESGの塊です。このSDGsは、前述した「快適性」と強く結びついており、快適な環境を創造している企業=継続性の高い企業=企業価値創造の高い企業、といった方式が成り立っていると考えています。そのことを、我々会計プロフェッション自身が実感し、実践していくことが大事だと思っています。

―見えない資産が大きくなる中で会計プロフェッションの果たす役割は?

そこには、経理財務の方々も含めて、数字を業としている我々への、一つの問いかけがあります。「自分たちの仕事は将来どうなるのだろうか?」という問いかけです。
統合報告書に非財務項目があります。そこに、会社が価値を提供するものとして、どう数字にあらわすか。数字にするということは、可視化することです。従来の会計のベースだけではなく、もっと広い意味で企業経営、企業評価を可視化する。そこまで含めて、将来の仕事を考えていくべきではないか、というのが私の会計プロフェッションとしての問いかけです。

向上し続けようとするマインドを持つ

―人財に求められるものは?

価値観が多様化する中で、相手がいちばん大事にしている価値観、快適性を推し量る感受性と、それに対して適切に対応する言動は大事だと思います。それにはやはり、経済的な便益以外のSDGsのような視点が必要です。これが心の底からわかるためには、多くの人に接して多様化している価値観を敏感に感じ取ること、感じ取ろうとすることが大事だと思います。
もう一つ重要なのは、生涯自己啓発を続けようとするマインドセットです。ひと昔前は、経営者といえば、スタッフに業務を任せて自身は暇にしていることが美徳とされていました。ただ、今の経営者はそうはいきません。常に、今起こっていることを分析し、将来につなげる行動をしていかなければ、企業の存続はかないません。あがった利益に安住している経営者は淘汰されます。生涯自己啓発し続け、少なくとも企業に在籍している間は、企業価値に貢献し続けるというマインドセットは不可欠でしょう。

―読者にメッセージを。

我々、経理財務の仕事は、リモート化、デジタル化していくと無機質になりがちです。最近ではClubhouse というSNSが拡がってきていますが、これもアナログ的な触れ合いの大切さが現れたものであると思っています。無機質な仕事をしているからこそ、自分にとっても、チームにとっても、取引先にとっても、「どうすれば快適か」を考えることが大事だと思います。そうすると、デジタル化やSDGsの本質が見えてきます。
近年、デジタル化の進展で経理財務の仕事がなくなるのではと言われています。しかし、「企業価値を可視化し、どのように企業価値創造に貢献するか」を考えることができる、よい時期と捉えることもできます。そう捉えて仕事をすることで自分の将来や、経理財務の将来が見えてくるのではないでしょうか。

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