トピックス

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2021 November

この記事は2021年11月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

会計プロフェッションの
キャリアメイキング

赤松育子氏

赤松育子氏Ikuko Akamatsu

公認会計士/公認不正検査士

1968年生まれ。91年東京大学経済学部経済学科卒業、93年同大学同学部経営学科卒業。同年公認会計士(旧)2次試験合格、96年(旧)3次試験合格。95年1月EY 新日本有限責任(旧太田昭和)監査法人入所。10年産業能率大学総合研究所主管研究員(20年退任)。18年株式会社トップス社外取締役(現任)、19年株式会社新生銀行社外監査役(現任)、20年株式会社カワチ薬品社外取締役(現任)、同年東洋製罐グループホールディングス株式会社社外監査役(現任)。日本公認会計士協会本部理事及び神奈川県会幹事(現任)等、多方面で活躍中。

監査法人からガバナンスの研究職、そして社外取締役へ

―ご経歴を教えてください。

弁護士であった父の影響を受け、幼い頃から漠然と資格取得を考えていました。大学4年で学生結婚をし、経済学部でしたので公認会計士かな?ぐらいの軽い気持ちで受験を始めました。簿記も原価計算も予備校で初めて学ぶ始末。4回受験し苦戦の末に合格したときにはバブルが弾けており、父の縁故で内定をいただいていた監査法人からは「既婚女性はいらない」と断られてしまいました。再度内定をくださった先生を頼り、当時の太田昭和監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)でパート採用していただいたのが会計士としてのスタートでした。
同僚も先輩方も大変優しく居心地は良いのですが、当時は珍しかったママ会計士である私は最初から戦力外でした。例えば人事など組織にとって重要なことがたばこ部屋や業務時間外の飲み会で決まっていき、長時間上司と仲良くできる人たちが昇進していきます。残念ながらこの環境下に私の居場所はないと感じ、ゲームチェンジを望んで内部統制の専門部署に異動願を出しました。これが一つめの転機でした。
運よくJ-SOX 黎明期でした。その後の実務指針等のモデルになったクライアントに駐在させていただき、大変に充実した時間を過ごしました。加えて内部統制をクライアントや監査法人内に普及させるための研修も担当させていただき、人に理念(ありたい姿)を伝える面白さを学びました。当時小学生であった息子たちに「次はいつ帰ってくるの?」と言われるほどの激務。案の定仕事中に倒れ、救急車で搬送された先の病室の窓から東京タワーを見つめ「私がいなくても仕事は回っている」と確信、40歳の誕生日をICUで迎えたときに「このままではいけない」と転職を考えました。二つめの大きな転機でした。
退院後、上司に相談するなかで自らの興味関心は「人に思いを伝えること(特に、価値観の相違や多様性を受容できる組織を作るためにはどうしたらよいのかという課題共有)」だと気づきました。その課題解決のために組織のトップマネジメントに働きかけができる職場として、ピンポイントで産業能率大学の社会人部門を選びました。
実は後から分かったのですが、産能大のマネジメント教育は管理職向けであり、組織を変えるために私が働きかけようとした経営層向けはありませんでした。そのため、ダイバシティ、ガバナンス、コンプライアンスの研究をしながら、経営層に組織変革を訴えるワークショップ講座を新規開拓していきました。2015年にはガバナンスコードが制定され、お声をかけてくださるクライアントも激増しました。そのような中、自らもガバナンスの実務に就きたいという思いが次第に強くなっていきました。

―そこで社外取締役への転身となるわけですね。

いま意識的にマトリクスを組んで4社の社外役員を務めています。初めて社外役員のご縁をいただいた洋菓子会社は、子供の頃からの大ファンのチョコレートケーキの会社です。非上場でありながら副社長と社外監査役も会計士という強みがあります。
次にご縁をいただいた銀行は、金融でガバナンスのあるべき姿を学びたいと思っていた私には願ってもない話であり、即座にお返事したことを今でもはっきりと覚えています。銀行での実務を通じて、ガバナンスに関する自らの軸が定まってきていることを日々実感しています。
さらに探し求めていたのは、一部上場でB to C の監査役会設置会社における社外取締役の職です。一消費者の目線がある一方、執行と監督とを区別する難しさを体験できればと考えました。さらに一部上場ホールディングスの社外監査役として、企業集団の全体像を俯瞰する力を養っています。
これからの10年間、覚悟をもって士業社外役員としての務めを果たし、この道を究めたいと考えています。

鍛えるべき資質は何か

―求められる会計プロフェッションとは?

会計プロフェッションとしての力量は「信頼の付与」に現れます。そしてそれを支えるのは、ビジネス全体の鳥瞰の仕方やリスクアプローチ等、監査を通じて培った知見そのものです。この「圧倒的な専門性」に加え、「独立性」「誠実性(インテグリティ)」「公平性(フェアネス)」が重要だと考えています。
組織内会計士も同様です。会計士としてCFOに就任する方も多いと思いますが、CFOはIRをも担う極めて重要なポジションです。「会計士だからこそCFOに」と思われるよう、非財務情報に対する感覚も研ぎ澄ませながら会計士としての強みを表現していただけたらと思います。
また会計プロフェッションとしての力量は、社外役員としても大いに発揮されます。経営には正解がありませんし、その混迷の中で会社のあるべき姿を探りますから、前述の「独立性」「誠実性」「公平性」を携えて自由に課題解決していく面白さがあります。加えて社外役員には「あなたの話なら聞く」と思ってもらえる「信頼」や「人柄・人格をも含めたバランス感覚」、「協調性(ラポール)を築きながら会社をより良い方向へ導く力」も必要になってきます。あるべき姿へ向かうためには異論を唱えることも厭わず、とはいっても協調性は決して失わずに、自らの信念を貫くことが肝要であると信じています。

―企業経営で大事なことは?

「多様性の受容」です。私が大学で研究対象としたダイバシティ、ガバナンス、コンプライアンスの根幹にはいずれも「多様性の受容」があります。ダイバシティは言うまでもなく、ガバナンスでは多様性をいかに経営戦略に落とし込むかが問われますし、コンプライアンスにおいても法令遵守のみならず、暗黙知も含めた世の中の期待にいかに応えるかが問われます。いずれも異なる価値観をいかに受容するかというテーマであり、私の生涯の課題であると感じています。

―読者へのメッセージを。

キャリアも多様だと思っています。一昔前、キャリアは梯子のように登っていく、積み上げていくイメージがありましたが、私はジャングルジムのように捉えるほうが望ましいと考えています。登り方もいろいろ、どちらを向いていてもいいし、途中で休んでもいいのです。
自分に与えられた環境を楽しみ、目の前にある偶然をチャンスに変えていくひたむきでたおやかな心、慎重でありつつも楽観的で前向きな姿が大切なのだろうと思います。

―本日はありがとうございました。