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2020 Winter

この記事は2020年2月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

NASDAQ上場のポイントと
留意点を中心として
海外での資金調達を考える

福山 憲児

福山 憲児Kenji Fukuyama

ジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社
シニアマネジャー

青山監査法人(現あらた監査法人)入所。2007年よりジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社にて、様々な会計コンサルティング業務に従事。公認会計士、税理士、ファイナンシャルプランナー。

会社が事業を行うにあたっての最重要課題の1つに「資金調達」があります。過去の利益により事業資金が確保されていれば理想的ですが、そうではない場面に直面することも多いと思われます。
今回はそのような資金調達のうち、日本企業が海外で事業拡大を行うケースを想定し、どのような方法があるかを検討してみたいと思います。

海外での資金調達方法

資金調達方法の代表的なものといえば「銀行からの借入」となり、海外でのビジネスが前提であっても、日本の銀行の海外支店からの借入、または海外の銀行からの借入などは真っ先に検討候補となると思われます。銀行からの借入金は安心感があり、また資金以外のアドバイスや多様なサポートを受けることもできるかもしれません。
一方で、プロの目に耐えられるような財務基盤やビジネスプランを求められ、融資を受けること自体が難しい場面もあります。
2つ目に、パートナー企業を探し、出資を受けたり共同出資企業を設立したりすることも有力な選択肢となるでしょう。協業可能な分野の事業会社やベンチャーキャピタルなどが資金の出し手候補となりますが、ビジネスパートナーとして資金面だけでない協力体制を築くことができれば、事業を円滑に進めるための大きな手助けとなります。
他方、出資の形をとる場合には、自社だけで意思決定を行うことが難しくなり、事業方針や利益配分等が思い通りにならなくなるリスクがあります。

図表1

3つ目は、ITの発達に伴う資金調達方法として活発化している、インターネット上で資金を募るクラウドファンディングです。そのスキームは多様性に富んでおり、資金提供の対価として投資家へ株式や社債等の金融商品を発行するだけでなく、モノやサービスの提供を行う「購入型」、直接的な見返りを求めない「寄付型」などで資金を調達するケースもあるようです。また仮想通貨を用いた「ICO」も、近年では資金調達の手段として用いられています。これらのようなインターネット上の資金調達であれば、地域に縛られず海外での資金調達が可能となります。
これらは現時点では複雑・困難なイメージもあり、また詐欺などのネガティブなニュースを目にすることも多いですが、市場が整備されれば、今後一般的になっていく可能性があります。
最後にIPOを含む、証券市場での株式・社債の公募という方法を挙げたく思います。証券市場での公募自体は資金調達方法として目新しいものではありませんが、ここ最近の動きとして、日本国内で上場している大企業が海外証券市場に進出するケースだけでなく、国内で非上場の新興企業が直接海外証券市場でのIPOを目指すケースも増えています。なおこの場合、必ずしも資金調達だけを目的としているわけではなく、株主への持分売却方法の提供や、会社の知名度・信用度を高めることを目的としたIPOも多く行われているようです。

NASDAQは日本の新興市場よりもハードルが高い?

後半では、前述した海外証券市場のうち、かつて日本でも市場が開設されていたアメリカのNASDAQについて、少し具体的にご紹介します。
NASDAQは規模により3つの市場に分かれ、世界的に有名な大企業から今はまだ小さい新興企業まで多様な会社の証券が取引されています。NASDAQでは「会社の将来性」が高く評価され、売上が生じる前に上場を達成する例もあるようです。
このうち比較的小規模の企業向け市場であるNASDAQのCapital Market について、近年弊社でも日本企業の方から上場支援のご相談をいただくことが増えています。
ここで、日本の新興市場であるマザーズ、JASDAQと、アメリカのNASDAQの上場基準の比較をしてみたいと思います。
図表2が上場基準の一部を抜粋したものとなります(なお審査は株主要件や成長性・統制状況などの定性面も含めて行われます。図表2はあくまで要件の一部の要約である点ご留意ください)。NASDAQには3つの要件が並立しており、どれかに該当すれば要件を満たすことが可能です。またJASDAQには「スタンダード」要件の他に、成長中の会社のための「グロース」要件も設定されています。
これらを比較する限りでは、日本の新興市場に比べるとNASDAQのハードルは若干高いものとなっているようです。

図表2

海外証券市場上場のメリット・デメリット

メリット1 海外での知名度

海外進出、特に米国への進出を考えている企業にとっては、上場後の認知度・信用度という観点では、NASDAQに優位性があると考えられます。

メリット2 リスクに対する許容度

前述のように売上ゼロの企業が上場しているケースもあり、より早いステージで上場を目指すことも可能といえます。

メリット3 短期間での上場

NASDAQでは近年、新たな株式の公募は行わず、市場への登録のみを行う「直接上場(direct listing)」も増えつつあるようです。この場合、投資家募集等の手間が簡略化できるため、比較的短期間で上場を達成しているケースもあるようです(ただし「資金調達」は別途行う必要があります)。
なお日本でも直接上場を行うことは公募が条件となる市場以外では可能ですが、今のところ実際に行われているケースはあまりないようです。

デメリット コスト

米国市場への上場には困難な点が数多くありますが、一言でまとめると「コスト」がデメリットとなります。
国内向けの(会社法等の)開示と並行して米国向けの開示資料その他文書を英語で作成する必要があり、また会社のHPなども、海外投資家への情報開示の観点から英語でも作成することが必要となると考えられます。その他言語の壁や距離的な壁もあり、移動時間等も含め広い意味でコスト面のデメリットが強いといえます。これらのため、過去に米国証券市場に上場していた日本企業が、今では退出(上場廃止)してしまっている例も多くあります。

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ただし米国市場は必ずしも遠い世界のものではなく、上場基準にも日本の市場と比べて大きな隔たりがあるわけではありません。実際、これから海外へ進出するに際して米国市場への上場を視野に入れている日本企業も数多くあるようです。
今後海外での資金調達を検討する方々にとって、今回の内容が少しでもご参考になれば幸いです。