トピックス

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2021 March

この記事は2021年3月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

目の前の仕事と社会課題を
結びつけながら仕事に当たる。

古見彰里氏

古見彰里氏Akinori Komi

グラビスアーキテクツ株式会社
代表取締役

2001年朝日アーサーアンダーセン株式会社入社。翌年ベリングポイント株式会社( 現PwC) に社名変更後、パブリックセクター戦略チームにて、公共機関向けのコンサルティング、プロジェクトマネジメントに多数あたる。2008年より北海道開発センターの立ち上げと事務所の管理責任者を担当するため北海道へ移住。2010年、札幌で唯一のコンサルティングファームとしてグラビスアーキテクツ株式会社を設立。2020年現在、東京、札幌、大阪、福岡に拠点を置き、国内外の企業、官公庁にテクノロジーコンサルティングを提供。

戦略は組織に宿る

―ご経歴を教えてください。

外資のコンサルティング会社で10年近く、中央省庁や独立行政法人、自治体の仕事に従事してきました。ITにまつわる産業構造を改善していく中で、新しい技術や業務プロセス、業務モデルが行政にも適用できるようになり、新しいものに取り組むことで行政をよくしていく。そうしたことを長くやらせていただいています。
自治体の仕事を長くやってきた経緯もあって、地方の自律的経済成長の仕組みづくりが私のライフワークになっています。
2008年に、開発センターの立ち上げと事務所管理を担当するに当たって北海道に移住しました。その後、会社が北海道の開発センター閉鎖の判断を行い、私は東京に帰ってガバメント向けのコンサルを行うことに決まっていましたが、地元やクライアント、ステークホルダーに対する責任を感じる中で、人と仕事を引き継いで独立しました。それが、グラビスアーキテクツです。

―行政のデジタル化の遅れが際立った1年でした。

自分の力不足も感じますが、行政のデジタル化は圧倒的に遅れています。2060年には人口が今の6割程度に減少し生産年齢人口も減っていく中では、今の倍ほどの生産性を上げなければGDPの絶対値が維持できない。一人当たりの生産性向上は日本の経済構造上の一丁目一番地の社会課題だと思っています。我々が行政と地方を中心とした中小・中堅企業に注力しているのは、生産性の向上余地が大きい領域だからです。
世の中の技術を活用すればできることはたくさんあるのに、紙文化や縦割り文化の弊害によって行政はデジタル化を活用できていません。なぜなら、「本当のユーザーは誰か」という視点が抜け落ちていたからです。行政のユーザーは、市民であり、国民であり、経済活動を行う事業者です。しかし、ユーザーを職員と考えたIT化が進んだため、極めてユーザーエクスペリエンス(UX)が低いデジタル化が進んできた。必要なのはデジタルを使ってUXを高めるという文化であり、組織であり、戦略です。我々の役割もそこにあります。

―改革のポイントは?

改革のセンターピンが組織であり、組織の力学であることは民間企業も行政も同じです。
「戦略は組織に宿る」という言葉がありますが、例えば政策ごとに分けられた組織ではなく、ユーザーのライフイベントに添った組織づくりをするなど、デジタル化と同時に組織の在り方を見直していく必要があります。

―個人情報の問題は?

個人情報を国に預けることの利便性の高さを、もっと国が示していかなければなりません。ネット証券の口座開設のために免許証のコピーは送るのに、国に預けてはダメとはならないはず。どれだけサービスが便利になるか、メリットがあるかが正しく伝わることが重要です。
今、マイナンバーカードがあれば、コンビニで手数料半額で住民票や印鑑証明がとれます。しかし、そもそもなぜ紙でなければならないのでしょうか。ユーザーであり、個人情報の持ち主である市民が、自ら自分の情報を得るためにわざわざ足を運ぶ必要があるのか。そこを疑っていく。証明が必要な機関が行政に直接照会をかけることが、技術的には可能です。そうした世界観があるはずです。
「コンビニでとれる」は、そこにいくまでの一つのステップです。

―中小・中堅企業のデジタル化のポイントは?

仕事には対面でなければできないものと、そうでないものがあります。そうでない仕事でデジタル統制は必須です。コロナ以前からリモートワークの必要性は叫ばれており、従業員50名程度の当社でもバックオフィスはデジタル化しクラウド型の仕事ができる環境になっています。技術的にも成熟して安価にサービスが提供されるという背景もあり、生産性を上げ、利益を上げるやり方にシフトしていく機会でもあります。
実際、中堅企業ではクラウド化で家でも仕事ができるシステムを入れたいというニーズは非常に高いものがあります。

働く楽しさ、自由さに気付く1年に

―デジタル化時代の組織とは?

そもそもデジタル化は、人類や日本人が継続して幸せでいられるための手段です。デジタル化による生産性の向上は、必要最低限の生活や社会保障を維持できるモデルの確保に欠かせない。だから、当社は生産性にこだわっています。しかしそれは私どもが考える理想の社会のスタートラインに立ったにすぎません。その次に自由で成熟した個の集まりの社会を作っていくために、例えば人種や性別や年齢に関係なく、インターネットにつながる人たちが自由に活躍する社会を実現するために、最低限必要なベースを整えておきたいのです。
デジタル化に対応できる組織とは、利益を生んで人に投資できる組織だと考えます。それには効果に対して利益を提供できる外向きの考え方が働くような経営が求められる。デジタル化できる会社は余力があるし、業務を改善して従業員の負荷を下げて、余ったリソースを前向きにシフトしていく姿勢が見られます。

―求められる人財像は?

デジタル化すると、専門性を確保している人とそうでない人の差が顕著にあらわれます。デジタル理解の前に、会社にではなくマーケットに対してアピールできる実績や能力と言った専門性の確保が重要です。加えて、目の前の仕事と社会課題を結びつけながら、日々の仕事に当たれる人と一緒に仕事をしていきたいし、成長の伸びしろの少なさよりも、未成熟な部分が成熟していく社会と前向きに捉えられる仲間や会社を増やしていきたい。
10年後、コロナ前とコロナ後という区分けがされるとしたら、2021年は、コロナ前のスプレッドシートの中で物量や規模だけで価値を図る社会から、コロナ後は物量や規模ではなく質や倫理、美しさ、意義などで価値を図 る社会、本当の意味で働く楽しさや自由さが何であるかに気付く人が増え始めた1年であってほしいと思います。

―本日はありがとうございました。

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