トピックス

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2015 Autumn

この記事は2015年11月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

会計は経営を映す鏡。
決して曇らせないでほしい。

北村喜美男氏

北村喜美男氏Kimio Kitamura

株式会社ファミリーマート
取締役常務執行役員 管理本部長

1952 年大阪生まれ。神戸大学卒業。1975 年伊藤忠商事株式会社入社。78 年イラン海外研修生。伊藤忠イラン会社(テヘラン駐在)、伊藤忠アメリカ会社(シアトル駐在)、96 年伊藤忠商事株式会社経理部経理総括課、97 年業務部(経営企画)などを経て、2007年同社執行役員経理部長、2010 年同社常務執行役員経理部長。14 年株式会社ファミリーマート常務取締役常務執行役員経理財務本部管掌、15 年取締役常務執行役員管理本部長。

イラン革命前後のテヘラン駐在

―商社時代、海外を長く経験されていますね。

会社生活39年のうち、10年半ほど海外にいました。最初の駐在地はテヘラン(イラン)でその後、米国西海岸のシアトル、サンフランシスコでした。国内外ともに経理・財務一筋でしたが、駐在地では経理・財務に加えて、人事から総務、審査等管理部門のことは何でもやりました。若い頃に会社から放り出されて、ハードな開発途上国と先進国の両方の駐在をさせてもらったことは、ある意味自信になりました。
イラン駐在時は、ちょうど革命前後の激変の時期でした。パーレビ国王による王政から、79年2月に革命がなってすべてが激変しました。新しい憲法がつくられ、事業も次々に国有化されていきました。新たな制度についていくのは大変でした。一方、政権が変わったことでビジネスは急拡大しました。旧体制下では食い込めなかった仕事に、食い込めるようになり、1年間で売上規模は数十倍と急伸しました。生活や経済的な面では苦しい時代でしたが、商売そのものができたという意味では、よい時代だったと思いますね。

―駐在した国の人たちとうまくやっていくコツはなんでしょうか。

どこの国も同じだと思いますが、「その国が好き」「そこに暮らす人たちが好き」ということが基本だと思います。イランに駐在していたときも、イランから外に出ていたときのほうが緊張していて帰ってくるとホッとしました。駐在員にとって駐在国が嫌いになることほど不幸なことはありません。家族が一緒の場合は、ご家族みんながその国を好きになって楽しんでもらうのが一番だと思います。

“ゴミ”は屑箱に入る大きさで早めに処理する

―長いご経験の中で教訓とされていることは?

帰国後、日本はバブル崩壊の大変な時期に入っていきます。97年(経営改善策)、99年(経営改革)、2003年(減損会計の早期適用)と伊藤忠が大きな損を出したとき、私は業務部・経理部に所属していました。業務部は社内の各部署から代表者が集まって会社の政策を策定していく部署です。私は経理部の代表でした。その時の社長が丹羽(宇一郎)さんです。「20世紀の負の遺産は20世紀中にきれいにしよう」と、経営改革時、4000億円の損失を計上しました。そうした時期に事務方として働いた経験は非常に貴重でした。一週間ごとに社長とのミーティングを繰り返し、何度も資料を作り直しました。「会社が潰れるかもしれない」という葛藤の中で、丹羽さんは決断されたのだと思います。その感覚は私も含め当時、誰もが持っていました。負の遺産を引きずっていたら、今の繁栄はなかったでしょう。
大切なことはこの経験を忘れることなくきちんと伝えていくことだと思います。また、「ゴミは屑箱に入るくらいの量で、早めにきちんと処理したほうがいい」のです。

―不祥事等にも言えることですね。

不正や不祥事はいくら隠しても最後は必ず公になります。そのことを頭において、小さいうちに早めに見つけて処理を促すのが我々経理の仕事です。また、それが不祥事を起こした人、起こそうとしている人を結果として救うことになるのです。「きちんと処理すべきだ」と組織の長に、また、トップに言う。それが経理の良心です。
会社はゴーイングコンサーンであらねばなりません。トップに逆らってクビになるかもしれないし、冷や飯を食わされるかもしれない。それでも会社が存続することで、自分を含めた多くの人の生活が成り立つ。日本企業のCFOはそうした守りをきちんと押さえるCFOであってもらいたいと思います。
「会計は経営を映す鏡」です。CFOの方々は決して鏡を曇らすことがないように、企業価値を毀損することがないようにしていただきたいと思います。

すべての出発点は「基本を守る」ところから

―経理・財務の今日的な課題は?

一つはやはりIFRSでしょう。採用企業が60社を超え、準備中の会社が200社に迫ろうとしています。当社もIFRS導入のプロジェクトを進めています。経理マンにとって、一生のうちに新しい会計基準を採用する機会はめったにありません。今は、経理・財務パーソンにとっては、ワクワクするような面白い時代だと思いますね。もう一つは国際税務戦略です。税務の専門家を経理・財務の中にしっかり養成していく。同時に多くの人が税金のコスト意識をきちんと持つためにも、税務にもフォーカスしていただきたいと思います。
経理・財務に携わる人は、基本に忠実であってもらいたい。すべての出発点は基本を守ることです。そう考えて日々の仕事をしていただきたい。基本に忠実であることによって、無駄な仕事をしていると感じることもあるかもしれません。しかし、そうすることによって確実に真実が見えてきます。大きく変動すれば異常で、変動がなければ異常ではない。逆に変動が少ないのが異常で、変動が大きいのが正常というケースもあるはずです。変動の大きいところばかり見ていたのでは、真実が見えてこない。変化がない部分にも地道に、着実に目を配る。そうした人材を育てていただきたいと思います。

―本日はありがとうございました。