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2016 Spring

この記事は2016年5月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

厳しく、正しくを貫きながら
創業の理念を次世代に
引き継ぐ。

佐藤光昭氏

佐藤光昭氏Mitsuaki Sato

前Global OLED Technology LLC副社長、CFO
前出光興産株式会社 経理部主幹部員

1954年、長野県生まれ。1979年出光興産株式会社入社。1989?92年Idemitsu Apollo Corp(出光興産の100%子会社、ニューヨーク)で研修等。2005年経理部次長。2011年経理部主幹部員。2012年電子材料部事業統括マネジャー。2014年Global OLED Technology LLC(米国バージニア州)副社長・CFO、2015年出光興産の同事業からの撤退により帰国。同年出光興産退職。

馘首なき経営再建と株式上場

―ご経歴を教えてください。

1979年に出光興産入社以来、一貫して経理・財務畑を歩いてきました。うち30年間は本社経理部に在籍しました。管理会計7年、財務12年(この間、NYに3年間)、決算・税務に11年間携わりました。現場経験は、入社後3年間の支店経理と、2012年からの電子材料部統括マネジャー(Global OLED Technology へのCFO出向準備)、14年1月から翌年5月までGOT社にCFO・副社長として赴任した3年間の計6年間でした。出光興産の中でも稀なケースだと思います。

―印象に残った出来事は?

出光興産の上場です。バブル崩壊後、出光興産には一兆円を超える、グループでは2兆5000万円に上る金融機関からの借入金がありました。当時は間接金融が資金調達の主な手段でしたが、バブル崩壊後は銀行が多額なお金を一企業に貸すことが不可能になり、企業経営を継続していくには上場以外に手段がありませんでした。
2006年の上場までに5年以上準備を要しました。会社法が変わり、会計基準が年々変わり、J ?SOXも導入され、上場に向けてのハードルがどんどん高くなっていきました。資本金は上場まで長らく10億円でしたが、金融機関に第三者割当増資の引き受けを要請し、378億円の優先株発行による第三者割当増資を実施して初めて外部資本を受け入れました。上場による、約1100億円の資金調達によってこれらはすべて償還しました。

―いちばんのご苦労は?

「一人ひとりが経営者」をモットーにする極めて積極的な会社にあって、積極的な投資は企業文化の一つでした。しかし、野放図な投資は借金を膨らませるばかりです。それを抑えるのがいちばん大変でした。「経理が何を言っているか」という雰囲気がありました。この時の社内の抵抗は凄かった。
当時の経理部長が天坊昭彦でした。天坊は財務体質を改善しなければ明日がないことを、社内で懸命にことあるごとに説いて回りました。社宅や保養所もすべて売却しました。従業員を馘首しないのは出光興産の憲法です。最も苦しい時期は皆で我慢する。3年間全員の給料を1割カットして痛みを分け合いました。そうした努力の末、グループ全体で借金は1兆円を切りました。10年ほどの間に、1兆5000億円返済したことになります。

杓子定規はご法度。自分の頭で考える

―経理人材の育成で大事にされてきたことは?

「厳正なる経理」ということを厳しく言われ、また言ってきました。杓子定規に仕事をするのではなく、最後の一線はしっかり守る。出光興産は、「杓子定規」を非常に嫌う会社です。タイムカードも定年制もなかった融通無碍な会社ですから、「規則に書いてある」などというのはご法度です。「その規則は本当に正しいのか」「正しくなければ変えればいい」という会社ですから、自分の頭で考えたロジック、言葉でなければ聞いてもらえません。そうした環境の中で、上司は率先垂範して部下にやってみせ、やらせてみせる。そうして、創業の理念、経理の理念を引き継いでいく。それをいちばん大事にしてきました。

グローバルな会計基準、国際税務、リスク管理の三つを携えた人材に

―求められる経理の人材像は?

グローバルに仕事ができる人に尽きると思います。また円高になっていますが、日本のデフレ脱却は非常に難しい。国内市場は縮小しますから、企業のグローバル展開は必然です。グローバルに活躍できる経理財務人材の条件は三つあると思います。一つ目は、IFRSをはじめとした「グローバルな会計基準」に対応できること。二つ目は、「グローバルベースで実効税率を下げる」仕事ができる能力を持つこと。三つ目が、積極的な攻める経営を支える力としての「リスク管理能力」を持つこと。
ことに税務は重要です。最も避けなければならないのは二重課税で、移転価格税制への対応力はマストです。どの国も移転価格を強化して、クロスボーダーで税金の取り合いをしています。この競争は今後も激化し重要性を増していきます。国際税務は、日本では一部の企業以外は重視されてきませんでしたが、これからは経理パーソン必須の能力となるでしょう。
日本企業の実効税率はグローバルベースで見ると非常に高く、下げる工夫も極めて重要です。米国企業は実効税率を下げるために海外の会社と合併して本社を移すなど、ダイナミックな手法をとります。そうした企業と競争しているのですから、その重要性を再認識する必要があるでしょう。

―最後に読者にメッセージをお願いします。

私は36年間、一社の中で経理をやってきました。時代のおかげもあって幸運だったと思います。会社の中にいると分かりづらいのですが、意外と経理財務のキャリアアップにつながるマーケットは広いと実感しています。将来も経理財務のキャリアを積みたいのであれば、内にこもらず外にネットワークを広げていっていただきたい。経理部の外、会社の外、日本の外へと目を向けていくと、新しい発想が生まれてくるかもしれません。積極的に挑戦してもらいたいと思います。

―本日は、ありがとうございました。