トピックス

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2017 Spring

この記事は2017年5月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

ブロックチェーン&仮想通貨を
活用したマルチカレンシー時代の
新しい可能性

山寺 智氏、木村 等氏

山寺 智氏Satoru Yamadera

アジア開発銀行
持続的開発・気候変動局 主席金融部門専門官

木村 等氏Hitoshi Kimura

ISO/TC68国内委員
TRADE SERVICE 国際審議メンバー

アジア金融市場の現状とマルチカレンシー時代の到来

―アジア通貨危機から20年、アジア金融市場の現状は?

山寺  アジア通貨危機は、短期的な外貨調達への依存を背景に発生しました。これを教訓として、長期の現地通貨での資金調達、つまり現地通貨建ての債券市場の育成が、日本も支援する形でアセアン・日・中・韓(ASEAN+3)の枠組みの中ではかられてきました。
実は今、中国と韓国とASEANの現地通貨建て債券市場の規模は、日本の債券市場規模に匹敵する規模になっています。あまり認識されていませんが、グローバルの2割を占めるサイズの市場ができています。マーケットはできつつありますが、今のアジアの金融の課題はいかに域内で取引できるインフラを整えるかにあります。
日本も含めアジア地域内での証券取引割合は全体の十数%程度。アジアの資金は欧米のファンドを通じてアジアに戻っている。これを域内で回せるようにすれば、域内の経済成長率が高まる。その一環として私がサポートしているのが、各国で異なる債券発行制度の共通化です。これができれば、現地通貨による債券発行が容易になり、コストも下がります。資金調達手段の多様化に資することになり、企業経営の安定につながります。現在、プロ投資家向けの私募に関して発行手続きドキュメントを共通化する等の枠組みを提案しており、2015年のみずほ銀行によるタイでの債券発行をかわきりに徐々に認識を広めています。

―企業への影響は?

山寺  アジアは、生産拠点から販売市場へと変貌しつつあり、企業はキャッシュマネジメントの変化を考えなければなりません。アジアで製造して欧米で売っていた時代であれば、最終的な売上はほとんどドルです。しかし、徐々に最終消費地がアジアになってくると最終的な売上は現地通貨になってきます。アジアは欧米とは異なり、各国の規制が厳しくタイバーツはタイ国内の口座でなければ決済できないし、フィリピンペソはフィリピン国内の口座でなければ決済できません。たとえシンガポールに財務拠点を置いてもシンガポールにプーリングできないし、現地の拠点を無くすわけにはいきません。それならば現地通貨で調達して投資するという仕組みを考えたほうがいい。そうすると、マルチカレンシーでのキャッシュマネジメントになっていきます。実は、そういうマルチカレンシーは実はこれまで誰も経験したことがありません。
シンガポールはファンドマネジメントに関しては日本よりも圧倒的に優れています。しかし、現地に経理財務拠点を展開する事業会社が、財務拠点をわざわざシンガポールに置くメリットはみつかりません。財務拠点は東京に置くという発想をもって、そこから何ができるか考えることが必要になってくると思います。

技術革新が拓く新しいCMS・SCM構想の可能性

―具体的には?

木村  生産拠点から販売拠点へのシフトの中で、企業はキャッシュマネジメントの変化を考える必要があると思います。拡大するアジア市場で売り上げを伸していくと、販売拠点と製造拠点で運転資金の偏りが生じます。従来はCMS(キャッシュマネジメントサービス)で調整しようとしていましたが、拠点をまたがったモノとカネと情報がうまくリンクしておらず、資金のダブつきを解消できていません。
それを打破する仕組みの一つが、ブロックチェーンの技術を使った仮想通貨の活用です。インボイスを載せたブロックチェーンと仮想通貨を使うことで、モノと情報のやり取りと金銭的なやり取りが同時に行え、すべてリンクする。最終的には決済まで行えば、取引が完結します。為替手数料や要員が不要になることによるコスト減と同時に、為替リスクの低減も考えられます。アジアでは現地通貨の売上が増加する中でも、基本的に換算レートはドルです。為替変動に現地の売上が左右され、例えば現地では売上は増えているのに、本社が見る数字は減益になる等、実態を反映しない数字によって経営判断を間違える恐れがありましたが、仮想通貨での建値導入によって解消されます。

―仮想通貨に対するハードルは?

木村  正直すぐに使っていこうとすると、当然、多くのハードルがありますから、まずはグループ内での活用を考えるのが現実的です。今後、基盤となるプライベートブロックチェーンのプラットホームも安価に提供されるので、企業内で通用する仮想通貨を使ったデータのやり取りは技術的にも十分可能です。そして将来的には、多くのコストをかけている企業と金融機関との取引インターフェイスを法的に、安全かつ簡単に既存の枠外に移動させ、企業が自社の取引に合わせて仕切りレートを決めることができるようなサポートが実現するかもしれません。それが本当の意味での企業にとっての仮想通貨、ブロックチェーンのメリットであろうと思います。

―読者へのメッセージを。

山寺  アジアを中心に考えれば、多通貨の中での新たなSCM(サプライチェーンマネジメント)を考える時期がきているし、技術的にサポートできるようになっています。人間がいかに発想を変えていくかが問われているのではないでしょうか。

木村  ブロックチェーンと仮想通貨を使うことで、従来のSCMの課題、時間と空間を跨った拠点間のリアル世界での物・情報の移動とその金銭的な価値のやりとりが同時並行、同時履行で行えるようになります。マルチカレンシー時代の新しいSCM構築の選択肢として、ブロックチェーンや仮想通貨の活用をぜひ視野に入れておいていただきたいと思います。

―本日はありがとうございました。