トピックス

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2017 Spring

この記事は2017年5月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

経理・財務プロフェッショナルに
求められる真の英語力とは
何か?

寺崎徹哉

寺崎徹哉Tetsuya(Ted)Terasaki

ジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社
マネジャー

東京大学教養学部卒業、オーストラリア国立経営大学院修了。旭化成およびユニデン(米国・香港)で経理・財務・国際調達・生産管理、アクセンチュア(香港)で戦略コンサルティングに従事。1999年より経理・財務教育の世界に入る。日英バイリンガルの財務の専門家として、IFRSの導入や英文開示の支援業務を中心とした活動を行っている。合同会社FAインサイト代表社員、IFRSコンソーシアム主任研究員。米国公認管理会計士(USCMA)/英国公認国際財務報告士(DipIFR)/英検1級/TOEIC990。

英文開示市場の急拡大とテクニカルライティング力の必要性

―なぜ今、英文開示が注目されているのでしょうか。

英文開示の対象となる代表的な文書は二つあります。決算短信と株主総会招集通知です。㈱プロネクサスの調査によれば、2016年度に決算短信を英文開示した上場企業は993社でした。さらに注目されるのは招集通知の方でこちらは対前年度比64%増と急増し、903社となりました。今年度は招集通知の英文開示を行う企業が決算短信を上回る勢いです。こうした伸びの背景にあるのが、2015年6月に施行されたコーポレートガバナンスコードへの対応です。同コードには、「上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである」(補充原則3?1②)、「上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである」(補充原則1 ?2④)と明記されており、文書名まで明記された「招集通知」の英訳が急増したという経緯があります。
現在、東証第一部の売買代金の6割以上が海外投資家です。英文開示のそもそもの目的は、外国人投資家に配慮し、より興味を持ってもらうこと。これだけ外国人投資家が増えてくると、企業にとって英文開示を行わないことによるデメリットが目立ってきた。日本には上場企業が約3500社ありますが、英文開示に二の足を踏んでいる残り約2 5 0 0 社も、コストベネフィットを踏まえた検討を開始すべき時期に入ったと思います。

―学ばれたことも多かった。

今までの職業人生の中で最初のエキサイティングな場面は、長銀時代、大型不良債権特殊部隊に91年初に着任してからの2年半です。今でこそ倒産処理の世界では当たり前になっている議論が、世の中に全くなかった。それを懸命に考えて、他の銀行と交渉しながら特定債務者の包囲網をつくって担保物件は共有にするなど世の中に先駆けてやったと思います。後ろ向きの最前線ではありましたが、クリエイティブでした。この経験があるからこそ、今があると思います。
長銀破たんと前後して、シティバンクに入りました。シティバンクは金融組織としては素晴らしかった。しかし、極限状態の中で殴り殴られるような世界を経験してきた身からすると、シティの凪の世界は、どこか物足りなかった。

―英文開示作成のポイントは?

英文テクニカルライティングの手法を駆使した英文で作成することが重要だと感じています。英文テクニカルライティングの手法は、特許や医薬関連の申請といった正確性と明瞭性が高いレベルで要求される日英翻訳の世界で磨かれてきました。金融の分野でも、今後は積極的に使っていく必要があります。
英文テクニカルライティングの世界では、三つのC、すなわち① Correct(正確に書く)、② Clear(明確に書く)、③ Concise(簡潔に書く)、という基本ルールがあります。私が見る限り、英文開示の世界は、Correct にばかり目がいき、Clear とConcise がプロレベルに達していない文章が散見されます。そうした英文は、読み手に負担をかけるだけでなく、書き手側の知性が問われます。
翻訳された英文が3Cを実現しているかどうかを判定する非常に簡単な方法があります。英文のワード数と日本語原文の文字数とを比べてください。訳された英文のワード数が、原文の文字数の50%を超えているような訳文は、相当冗長な英文になっています。例えば、日本語400字に対して200ワードを超えるような英文は無駄な単語が使われている可能性が高いと考えてよいでしょう。
日英翻訳の翻訳料の計算の仕方には、「原文ベース」と「仕上がりベース」があります。もし仕上がりベース(翻訳された英文のワード数ベース)で発注しているのであれば、即刻やめたほうがいい。冗長な文章になればなるほどコストが増えることになるわけですから。
それから英文開示における文体で重要なのは、「Plain English で書かれていること」です。Plain English とは、You やWe といった読者に直接語りかける人称代名詞を主語とした能動態による簡潔な英文を指します。PlainEnglish は、米国証券取引委員会(SEC)が1998年に”A PlainEnglish Handbook”を公表して以来、英文開示における標準的な文体とされています。

仕事を教材にして業務分野でバイリンガルになる!

―経理・財務の英語の勉強法は?

必要なのは自分の専門分野、業務範囲内の英語力です。仕事で使う分野だけバイリンガルになる。そのためには、仕事そのものを教材にするのが最も効率的です。
経理が英語を使う代表的な局面は、連結決算でしょう。連結パッケージを提出してもらった在外子会社の担当者に、内容確認や追加情報の提供をメールで問い合わせるとき、英文ライティングが必要になります。英文メールを送付する前に、英語の上級者に添削してもらう。こうした指導を受けていると、1年もすれば見違えるようになります。私自身、ある会社の連結チームのご指導をしていますが、最初は全く書けなくて私がすべて翻訳していても、そのうち自分たちで日英対照の文例集をデータベース化して勉強するうちに、連結決算という限られた分野に関してはプロ並の英文を書けるようになります。それでいいわけです。
英文法は中学レベルで十分です。ビジネス文書における英語の大半は、SVO文型またはそれより単純なSVやSVC文型で構成されています。まずは複雑な文型を使わず、SVO文型で英文を組み立てる習慣をつけることです。そして主語を何にするかを考えます。英語で主語になれるのは、①ヒト、②モノ(無生物)、③動名詞や不定詞、そして前の文を受ける④指示代名詞の4つだけ。この中からどれを選ぶべきかを考えます。次に決めるのはV(動詞)です。ビジネス文書で使われる基本動詞、さらに経理・財務文書において特別な意味で使われる動詞の用法を勉強して暗記する。選んだ主語に対して相応しい動詞を何にするか。重要なのはそれだけです。最後のO(目的語)は名詞で多くの場合専門用語になりますが、これらは暗記しなくてもその都度調べればいいのです。

―読者にメッセージを。

英語は世界共通語です。ビジネスエリートがこれほど英語を使いこなせていない国は、私の知る限り日本だけです。仕事の内容で日本が負けるはずはありません。それを英語で発信しなければ損です。とりわけ日本の経理・財務の方々は経営管理職として世界中の子会社のCFOになっていく人たちです。極めて能力の高い方々ですから、仕事の成果を出すことだけを目的に英語学習に取り組めば、時間をかけずにピンポイントで自分の仕事に関わる分野でバイリンガルになれるはずです。ぜひ自分の職域に応じたプロフェショナルイングリッシュを追求していただきたいと思います。

―本日はありがとうございました。