トピックス

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2018 Winter

この記事は2018年2月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

「役割を果たしているか」を
自問しながら、
真摯な業務改善を継続する。

佐藤要造氏

佐藤要造氏Yozo Sato

旭化成株式会社
プリンシパルエキスパート 経理部税務室長

1986年大阪市立大学商学部卒業。同年旭化成株式会社入社。大阪経理部配属、93年経営計画管理部に異動し、中長期計画、設備投資管理を経験。97年PwCの東京・ロンドンにトレーニー派遣。99年東京の経理部経理室に帰任後、連結決算の責任者として、会計ビックバン対応、M&Aの財務・税務Due Diligenceを担当。現在は、税務室としてグローバル・タックス・マネジメントを行うかたわら、会計・税務領域の高度専門職(プリンシパル・エキスパート)として経理人財の育成にも注力。

学びながら走り続ける

―ご経歴を教えてください。

1986年に旭化成に入社し、初任は大阪経理部で、経理部門の教育と税務申告等に携わりました。93年、経理部と経営企画部が合併して経営計画管理部となり、東京に呼ばれて長期計画担当を仰せつかりました。昨日まで税務申告書の作成という目の前の仕事をやっていた人間が、「10年後の絵を描け」と言われたわけですから、最初は戦力にはならなかったですが、一方で、視野は格段に広がりました。長期投資担当となって、今では常識になっているNPVやIRRという採算指標の採用等に取り組みました。当時、日本では採用している企業も少なく私の知識も生半可でした。様々な指摘を糧として、学びながら走りました。
4年後、「これからはタックスプランニングの時代だ」とPwCの国際税務部門に出向し、東京とロンドンで国際税務の匂いを嗅いできました。帰国後、連結決算の責任者として、会計ビックバン対応、M&Aの財務・税務のデューデリジェンス等、それまで社内になかった仕事に携わってきました。背伸びをしつつ夢中で走りながら鍛え上げられた、というのが実感です。

―つねに新しいところに取り組んでこられた。

そんな余裕はありませんでしたが、「日々悪戦苦闘しながら30年経ったらこうなっていた」という感じです。特段、優れたやり方があったわけではなく、ただ逃げずに仕事に取り組んできました。私は基本的に連結決算と税務ですから、実は単体決算、原価計算、事業損益管理といった本流の経理実務経験がありません。意識の中では「経営と経理のつなぎ役」のつもりでやってきました。

―印象に残るご経験は?

経営企画の経験がなければ、今の自分はないと思っています。周囲からも「変わった」と言われました。上司に言われた通りに動く受動的な働き方から、自律的に動くようになった。毎日が刺激的で、同世代の人たちと会社のための議論を盛んに交わしたものです。一方で、バブル崩壊後の厳しい時期でしたから、事業撤退という後向きの案件にも関わりました。辛い仕事ですし、正解かどうかの確信が持てない仕事です。経営判断がなされるのを傍らで見ながら、「自分の考えは口に出したほうがいいのではないか」と思うようになりました。以来、経理に戻ってからも、気になったことは自分の領分以外でもコメントするようにしています。

―タックスプランニングについてはどうお考えですか?

二重課税はなんとしても排除したい。これが「言うは易く行うは難し」です。移転価格の問題を生じさせない方法として取引単位営業利益法(TNMM)がありますが、オペレーションが難しく現場が対応しきれません。そこが今の悩みの一つでもあります。
不自然な節税は個人的にも行いたくないし、会社の方針もそうです。先日、中国の統括会社の下に中国事業子会社をぶら下げる再編を行いましたが、これは無税の資金還流(配当・再投資)という節税効果だけでなく、ガバナンス効果も見込める施策です。非常によい節税パターンなので、今後もこうしたよいスキームづくりを積極的に行っていきたいと思っています。

喜んでもらえる仕事をするために

―昨年拝命された会計・税務領域の”プリンシパルエキスパート”とは?

事業の強化拡大、新事業創出を目的とした社内の高度専門職制度の中に設けられたポジションで、17年10月に7名(技術職4名、知財1名、経理1名、法務1名)がプリンシパルエキスパートを拝命しました。今後、さらなる専門性の深耕、専門性の後進への承継が求められています。

―若手の育成については?

「本質をつかみ、高度な専門能力で処理し、関係先を動かす」人財がこれからも変わらず重要だと思います。ただし、手法や人財像については、育成される側のニーズを汲み上げることも重要だと思います。かつて深夜残業やサービス残業が当たり前とされた時代がありました。そうした考え方に私は当時から違和感を抱いていました。そうした若手は多かったと思います。同様に我々の仕事や育成の仕方に、若手なりの違和感があるかもしれない。良質なコミュニケーションで相互理解を深める努力は不可欠だと思います。私は労働の基本は「相手に喜んでもらいたい」というところにあると思っています。それが新しいアイデアにつながる”ひらめき”の源泉でもあると。そうした姿勢も伝えていきたい。

―今後あるべき経理財務とは?

経営環境が変化し、取り組むべき具体的な課題が時々変化しようとも、経理財務が果たすべき基本機能は変わらないと思います。それは、①「タイムリーで正確な計数情報を届ける」、②「経営意思決定に計数の観点から関与する」、③「企業価値の棄損を防ぐ役割を果たす」の三つに集約できる。「この三つの役割を自分たちは果たしているか?」をつねに自問しながら、真摯な業務改善への取り組みを継続していけば、必ず関係先から歓迎される経理になると信じています。

―読者にメッセージをお願いします。

経理財務業務については企業の垣根を超えて、悩みやノウハウを共有したいと思っています。ぜひオールジャパンで様々な経理課題に対応できればありがたいと感じています。AI時代の到来は、経理財務にとって脅威ではなくチャンスです。力仕事はAIに任せ、我々経理財務は「大局的な判断、全体構想づくり、業務のイノベーション、コミュニケーション」を武器とする創造的で競争力の高いビジネスパーソン集団になるべきでしょう。やるべきことは山積しています。人財育成を強化し、経営者のブレインとしての経理財務人財の育成に向けて、具体的な取り組みを進めていかなければならないと思っています。

―本日はありがとうございました。