トピックス

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2018 Winter

この記事は2018年2月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

ガバナンス体制を築く
取締役会の実効性評価は
実のある手法で

森本親治、渡辺樹一

森本親治Shinji Morimoto

JBAグループ
エグゼクティブディレクター 公認会計士

渡辺樹一Juichi Watanabe

ジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社
シニアマネジャー

コーポレートガバナンス・コード(以下CGコード)は当初の「形式」基準(社外取締役の人数等)の論議が終わり、各上場企業は自社の組織文化や事業規模、内容に応じたガバナンス体制を構築すべく模索している。ガバンス体制のコアとなる取締役会の実効性に関して、多数の会社の社外取締役や経営顧問、コンサルタントとしてガバナンスの現場のご経験を積み重ねてこられた森本親治氏に取締役会の現状やCGコード実施状況の開示、実効性を高めるための評価方法を聞いた。

取締役会の現状課題

-渡辺  私の社外取締役やコンサルタントとしての経験からもガバナンス体制の中核である取締役会は大きな課題を抱えていると感じていますが、いかがでしょうか。

-森本  最近、CGネットワークやCFO協会、社外役員会計士協議会などで社外役員の方々と意見交換する機会が多いのですが、総じて取締役会は次のような課題を抱えていると感じています。
  1. 取締役会メンバーの多様性
  2. 審議資料の質と提供時期、事前説明の充分性
  3. 議案の絞り込み、決議、審議、報告の使い分け
  4. 社外取締役と監査役の連携、情報共有
  5. 決議事項に係るリスク評価や関連課題、将来の影響等に関する審議の充分性
  6. 執行役員会、各種委員会など、付議事項に関連する会議体の有効性
  7. 後継社内外役員の計画・人選
以上の項目に関しては、最近の経産省のアンケート調査や監査役協会の分析でも同様の内容が抽出されています。

-渡辺  確かにおっしゃる通りだと思います。ただ社外役員といえども、このような取締役会の課題に関して、問題提起しにくい面がありますよね。

-森本  その通りです。取締役会の実効性を阻害している状況の事例は多すぎて一言では言えませんが(笑)。そもそも取締役会は事前に根回しされた議案を粛々と審議するという雰囲気が強く、その場で議案の背景にある構造的、中長期的な問題点を提起すると、議長である社長や業務執行の担当取締役が過剰反応されて、「その点は既に認識しており対応中です、ご安心下さい」などとその場を収めてしまう結果になるのが殆どかと思います。要するに課題の出ない取締役会がよしという風潮なのです。そのため、その場で結論は出さないが、自由に意見交換できる審議時間の必要性を感じている社外役員の声を多く聞きます。決議や報告事項に関しても、異論がでないよう、都合の悪い事実は事前の説明や審議資料に明記されない場合があり、これも取締役会の活性化を阻む大きな要因になっているようです。社内事情に詳しい社内取締役や常勤監査役が臭いものに蓋をして、取締役会で自ら指摘や質問をすることが少ないだけに社外役員に充分な情報と分析時間という武器を持たせることが不可欠です。

-渡辺  確かにその通りですが、業務執行側は社外役員の必要性は認めてはいるものの、かき回されたくないという意識も強いので、積極的に武器を待たせるようなことはあまりしたくないように思えるのですが。

-森本  ずばり本質を突いた、いいご指摘です。私は社外役員のほうでももっと努力が必要と感じています。具体的には言い方ひとつにしても断定的、外野的な指摘や意見を言うのではなく、気づきを与えるような質問、助言をするように配慮すべきですし、事業所や子会社への往査、本社ヒアリングに加え、懇親会や社内行事などにも参加することが望ましいです。 少し高い視点では、社外役員間の情報共有や意見交換も欠かせません。監査役の中には「社外取締役から報告を受ける権利はあるが、情報を提供したり、意見を聞く義務はない」というような時代遅れの考えの方がおられますが、監査役も古いお飾り監査役時代の意識から完全に脱却すべきです。最後になりましたが、取締役会を活性化する一番重要で有効な手段は実は実効性の評価です。

-渡辺  CG報告書の開示統計では、取締役会評価を実施している企業は72%と今年の7月までの1年半で36%から急激に増加しています。私の知見では、ともかくYesとするための評価作業が目的になっている事例が多いように感じていますが、いかがでしょうか。

-森本  ご賢察の通りです。評価を外部に委託している企業はまだ50社前後と思われ、取締役会の事務局が簡単なアンケートを作成回収しているケースが殆どでしょう。ヒアリングをしている場合でも、某10兆円企業の社外監査役から聞きましたが、「発言しにくい雰囲気がある」とヒアリングで回答したところ、「先生、そんなはずはありません。議長の社長はいつも参加者にいかがでしょうかと伺っております」と猛反発を受けて閉口したと嘆いておられました。質問項目が差し障りのない項目だけであったり、評価結果の取締役会への報告が極めて簡単であったり、その後に改善フォローがないという事例も多々あります。事務局は優秀な方々が多いだけに経営層の意向を忖度して、取締役会を穏便に運営することに専念し、実効性を高める障害になっている場合もあります。

取締役会評価の要諦

-渡辺  そうなりますと、取締役会の評価はどうすれば活性化の有効な手段になるのでしょうか。外部に頼むと独立性が高く対外的な見栄えはいいが、欧米直輸入型になるなど評価が形式化しコスト負担も大きいとのためらいの声を聞きます。

-森本  評価はあくまで手段であって、前述したような取締役会の様々な課題を顕在化させ、改善に向けたコミュニケ―ションを図ることが目的との認識を関係者が共有することが全ての出発点になります。具体的な評価の方法は各企業の事情に応じて段階的に行えばいいので、重要なことは実のある評価の手法を選択することです。
実際の評価に当たっては、評価項目から評価方法、評価対象者、報告項目、評価に関与する外部機関の関与度を検討します。その場合、段階的に評価を拡充させていくような柔軟性やきめ細かい配慮が欠かせません。例えば、社長のサクセッションプランや報酬の算定基準、議長の適格性など経営陣の腰が引けてしまうような難題に関して取締役会の姿勢をいきなり問うようなことをしても進みません。社内昇進の業務執行取締役でも本音の評価を言いやすい環境づくりが必要で、それは評価の習慣を重ねて初めて関係者が体感できることです。

-渡辺  それは評価項目だけでなく、評価の方法にも言えることですね。

-森本  ええ、例えば、インタビューはアンケートより双方向の会話で問題の本質をえぐり出せるように見えますが、モノ言えば唇寂しの初期段階では、社内出身の取締役や常勤監査役は巧みな誘導尋問を駆使しても口をつぐんでしまいます。だからこそ、評価を外部に委託する場合には、各社の組織文化やガバナンス体制の成熟度合をよく理解し、柔軟な評価に対応できるところを選択すれば成果が大きくなります。
評価結果の取締役会へのフィードバックやその後の改善のためのフォローアップなどもハードルが高い項目ですが、外部の専門家が言うほうがはるかに推進しやすく、かつスムースに受け入れられるので、中途半端に社内でやらないほうがいいかもしれません。

-渡辺  本日はどうもありがとうございました。