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2018 Summer

この記事は2018年8月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

努力は決して裏切らない。
次の10年、
結果は確実にあらわれる。

稲葉和彦氏

稲葉和彦氏Kazuhiko Inaba

前株式会社ゼンリン
取締役常勤監査等委員

1960 年熊本生まれ、北九州市出身。1984 年同志社大学経済学部卒業。同年株式会社三井工作所(現株式会社三井ハイテック)入社。2000 年7月同社退社、同年8月株式会社ゼンリン入社。02 年1月経理部長、05年4月管理本部副本部長兼経理部長、同年6月取締役、06 年4月取締役管理本部長、14 年常勤監査役、16 年取締役常勤監査等委員等を歴任。

「自分には誇れるものがない」という気づきが転機に

―ご経歴を教えてください。

大学卒業後、北九州市に本社をおく三井ハイテックに入社しました。1949年に金型の製造販売を開始したモノづくりの会社で、私が入社した年の秋に福岡証券取引所に、91年には東証一部に上場しました。この会社で16年間、私は社会人の基礎、ビジネスの根幹に当たる部分を厳しく鍛えてもらいました。入社以来経理部に所属していましたが、社長室で2年間秘書を経験し、35歳のときには香港の現地法人で社長の補佐役として管理部門を任されるなど、多くの経験をさせてもらいました。香港では創業者の三井孝昭会長とホテルの部屋で二人きりになることもありました。私は心臓が口から飛び出そうでしたが、ポツポツと話される内容が深く、「凄いな」と思ったものです。恩人とも言える方で、この歳になって、「会長がおっしゃっていた通りだ」と感じることが多々あります。
会長から「立て直してこい」というミッションを受けて赴任した香港でしたが、2年間懸命に努めたもののはかばかしい成果は出ず、「日本に帰りたい」と思った私は退職を考えました。しかし、帰国後、転職のインタビューを受けたとき、「自分には誇れるものがない」ことに気がついた。「このままではダメだと」考えて、取り組んだのが、USCPA(米国公認会計士)の資格取得でした。仕事で連結決算や業務改善等に取り組みながら、「人生の中でいちばん勉強した」と思えるほど、1年間夢中で勉強しました。
2000年、縁あってゼンリンに転職しました。日本ではちょうど会計ビッグバンが始まっていた頃でした。税効果や退職給付、キャッシュフローや連結主体といった米国の会計基準が矢継ぎ早に日本に導入された。USCPAの受験勉強でやってきたことが、そこで活きたのです。受験の機会を逸して資格はとりませんでしたが、勉強したことは実務で役立ちました。その働きが認められて、入社1年半で経理部長に押されました。本決算も1回しか経験していなかったので、悩みましたが頑張ってやらせてもらいました。5年目に取締役になり管理本部長等を経験させてもらい、14年に業務執行を離れて監査役に就きました。

経営的な視点をもって一人ひとりが業務に取り組む

―印象に残るできごとは?

ゼンリンに入ってからは、二つあります。一つは、「本気で努力すればできる」ということです。経理部長を務めていたとき、会計士に「私たちはわからないところがあれば先生方に聞けるけれど、先生方は誰から教えてもらうのですか?」と尋ねました。答えは「我々は理解できるまで読むのです」というものでした。そこで私は固定資産の減損会計が出てきたとき、論点整理、公開草案、パブリックコメント、会計基準、実務指針と何回も読み返しました。経理財務に必須の雑誌には漏れなく目を通し、解説書も3冊、4冊と読むと、最初はもやもやしていたものが固まってくるのです。会計士の言葉は正しかった。そうやって、学んでいくものだと実感しました。
もう一つは、「達成感を持つこと」の大切さです。入社後初の株主総会のとき、総会の事務局に加わりました。ゼンリンの株主総会は、ご高齢の個人株主様から質問が出て、それに議長が真摯に答えるという、とても開かれた総会でした。その後、役員になるまでの4年間、株主総会の想定問答などをつくるのが私の業務となり、議長がしっかりとした答弁をして総会運営がうまく回ることに強い責任感を抱くようになりました。最後に「ご質問がないようですから、決議に移らせていただきます」と言った瞬間の解き放たれた達成感は忘れられません。

―働き方改革が推進されています。

働き方改革には生産性向上が必須です。努力をして改革して働き方を変えていくには、「本当に必要なの?」「なぜ何度も同じようなことをやっているの?」という感覚が必要です。業務への取組み方や考え方に自分なりの確固たる信念が求められる。進め方は一つではないと思いますが、業務目的の理解は必須条件だと思います。
「何が会社のためかを考えろ」――三井ハイテックの会長に繰り返し言われた言葉です。目先の利益を考えろ、というような単純な意味ではありません。「情けは人のためならず」ではないですが、世のため、人のため、会社のためは周り回って自分に返ってきます。レベルは異なれど、自分のいるところで一人ひとりが経営的な視点をもって業務に取り組むことが大事だと思います。

「二刀流」が人材力の鍵となる

―そのために必要なことは?

これからは人材には、「二刀流」が求められるのではないでしょうか。例えば、経理財務の人材ならば、経理財務に加えて、かつてなら英語が、今であればIT やシステムに長けているという「二刀流」が、これからの人材力の鍵になるように思います。
そのためにも目指すべき「目標」をもって、努力しなければなりません。先に申し上げたように、努力は決して裏切りません。努力の成果は次の10年に確実に出てきます。 無限の可能性を感じることができるのは若さの特権です。30代であれば、「これができるなら、あれもできるのではないか」という発想で始めれば、視野は広角的に広がります。そうした目標をもって歩んでもらえれば、気づきやチャンスも自ずと増えていくのではないでしょうか。

―本日はありがとうございました。