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2019 Winter

この記事は2019年2月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

ビジネスパートナーとして
現場に寄り添える
経理財務でありたい。

萬成 力氏

萬成 力氏Tsutomu Mannari

株式会社ニフコ
執行役員 財務本部副本部長 兼 財務・経理部長

1980年三洋電機入社(三洋電機貿易配属)。1984年米国販売会社出向。1992年米国CPA試験合格。1996年帰国し、三洋電機貿易にて決算担当課長、財務部長等を歴任。2012年三洋電機からハイアールへのアジア白物家電事業譲渡に関わる。2012年9月6カ月間の出向期間を経て、転籍。ハイアールの日本アジア統括会社経理本部長。2013年1月同社、日本及び東南アジア地域CFO兼任。2015年5月同社退社。2015年6月株式会社ニフコ入社、財務・経理部長。2017年執行役員、財務本部副本部長兼財務・経理部長。

日・米・中の経理財務を体験して

―ご経歴を教えてください。

1980年に三洋電機に入社しました。入社翌日、三洋電機貿易に出向となり4年間経理に携わった後、ロサンゼルスの販売会社に出向しました。「君は私の代わりに経理のすべてを見るのだから、経理の仕事はすべて知っておかなければならない」という上司の指示で、約一カ月間、すべての経理の人の仕事を経験しました。厳しい上司で、1年間毎朝呼ばれて、「なんでこれを相談せずに行ったのか」「どうしてこんなことが自分で判断できないのか」と、叱られ続けました。それを繰り返しているうちに、自分で判断すべきことがわかってきて、初めて「一人でできるかもしれない」と思うようになってきた。上司から「日本に帰るから後は任せた」と言われたのは、ちょうどその頃でした。とても貴重な経験をさせてもらったと思っています。
米国に赴任して8年が経った頃、米国人の友人がCCM(Certified Cash Manager/米国のキャッシュマネジヤ―の資格)の団体に誘ってくれました。そこで初めて米国には会社の垣根を越えた、同職種の人が集まる団体があることを知りました。管理会計や原価はもちろん、文書管理活用や与信管理の専門家の団体などが細かくある。それを知って、米国では「それぞれの仕事が標準化している」ことに納得。さらに、そうした場を通じたベストプラクティスの共有が米国ビジネス全体の効率を高め、企業間の壁が高く共有が困難な日本のビジネスとの差になっているのを痛感しました。
96年帰国後、三洋電機が経営不振に陥りパナソニックに買収された後、ハイアールへの白物家電事業譲渡のプロジェクトに関わる中で、私自身も2012年にハイアールに日本アジア統括会社の経理本部長として転籍、翌年明けに日本アジア地域のCFOを任されました。年2回の世界財務会議には30人ほどの地域・国のCFOが集まり中国語で行われますが、通訳が必要なのは私一人で、言葉では苦労しました。

―日本と中国のCFO部門の違いで感じられたことは?

本社CFOより地域CFO選任面接を受けた時、「拠点責任者と意見が異なり、相手のほうが間違っていると思ったらどうするか」という質問を受けました。正解は「あなた(本社CFO)に報告します」です。どこの拠点にいても「ボスは本社のCFO」であり、経理財務の役割は、経営評価とルールブックの番人。手綱を締め、稟議を上げさせて、報告させる。統制が最優先されていました。

―ハイアールで学んだことは?

凄いと思ったのは、考え方のダイナミックさと経営判断の早さです。毎月1日の朝10時から青島の本社で経営会議が開かれます。議題は前月の成果と今後の施策です。売上は前日夜12時に締まり、全世界の数字が集計されます。原価は標準原価のテーブルを基に計算され、経費は月に3回報告している見込み数値を使うことで、8~9割正しい全世界のビジネス別、国別の収支が出てくる。会議では会長から飛んでくる数字に対する鋭い質問に対応しながら、この数字を元に、議論し、経営判断がされてゆく、そうしたスピード感は凄いと思いました。

ルールや仕組みで会社を動かす仕掛けをつくる

―ニフコでは「見える化」プロジェクトに取り組まれています。

15年に入社した当時、海外売上が急拡大し7割近くになっていました。強力なリーダーシップで牽引してきたカリスマ的創業者・小笠原敏晶氏が逝去され、会社は転換点にありました。「海外事業をルールや仕組みで見ていこう」という機運が経営層の中でも高まっており、社内横断的なプロジェクトの立ち上げが経営会議で承認され、基盤づくりを始めました。最初に手を付けたのが「キャッシュの見える化」です。当時「各社がどこの銀行に、どの通貨でいくら残高を持っているのかわからない」、「月中の資金の動きがわからない」といった課題がありました。「将来の事業投資のために投資家や債権者が託してくれたカネの所在と保全の担保」は、経理財務としての最低限の職責です。そこで、かつてから興味をもっていたSWIFT(国際銀行間金融通信協会)プログラムを導入し、295口座(うち海外約280口座)の入出金残高がリアルタイムで把握できるようになりました。06年頃、金融機関しか利用できなかったSWIFTが事業会社にも開放され、海外企業が次々導入を始めたとき、日本初の導入を目指してベルギーのSWIFT本社を訪問しましたが、三洋電機の資金不足で断念。その後、資金難が深刻になり金融機関支配になった時、各事業部の経理担当者が本社に集められて、毎日傘下の子会社に電話やメールで確認しながら1年間手作業で資金残高を集計して報告し続けました。「あのとき導入できていれば」と思ったものです。

―AI等の活用は?

現在、月に1万5000件くらいのトランザクションがあります。これを人の目で見るのは大変です。いま、AIを使って不正の予兆を検知する提案を受け、プロジェクトが進行中です。

―これからの経理財務部門の在り方、求められる能力は?

各レベルでビジネスパートナーになれることだと思います。経営者の視点に立った考え方や皆の意見を集約することが求められるでしょう。例えば原価改善を一緒に行えるような、もっとビジネスの現場に寄り添える経理でありたい。そのためには経理財務や分析力、デジタルのスキルはもちろん、コミュニケーョン能力や傾聴力、共感力などが大事になってくると思います。

―最後に読者にメッセージを。

経理財務パーソンは、もっと外に出ていくことが大事だと思います。とかく専門分野に偏りがちですが、専門性を活かしつつ、守備範囲を拡げて行ける、斜め上指向をお勧めします。

―本日はありがとうございました。