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2019 Autumn

この記事は2019年11月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

企業価値向上に貢献できる
経理財務部門であれ。

脇 一郎

脇 一郎Ichiro Waki

株式会社JBAホールディングス
代表取締役グループCEO 公認会計士

1993 年早稲田大学商学部卒業、中央監査法人国際部入所。欧州系外資系企業ファイナンシャルコントローラー、米系外資系企業ビジネスアナリスト、外資系ソフトウェア会社代表取締等を経て、2006 年ジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社にマネージングディレクターとして参画。内部統制関連・IFRS 対応コンサルティング、経営管理体制構築支援などを担当。2016年JBA グループ代表に就任。2019 年日本公認会計士協会常務理事就任、公認会計士、早稲田大学会計大学院非常勤講師。

非財務的企業価値の重要性が高まる

―経理財務部門を取り巻く環境が著しく変化しています。

まず、経理財務の将来を見据えたとき、過去の数字の集計・分析という従来の役割から、企業活動そのもの、ひいては企業価値向上に貢献するべきという大きな考え方があります。これは、日本だけではなく、グローバルでも同じことが言われています。
売上や利益を従来の財務的企業価値情報とすれば、現在、注目を浴びているのは、非財務的な企業価値情報です。その一つの典型例が2015年に国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)です。SDGsが 掲げる17のゴールは、質の高い教育の提供やジェンダーフリーの実現から、持続可能な消費と生産のパターンの確保、気候変動への対応、海や陸の豊かさの確保など、社会的意義や環境の整備も含めてゴールになっています。そこに対する企業の貢献度に、株主や利害関係者が資本市場で敏感に反応するようになっています。これは、企業価値を短期的視点ではなく、持続性に重きを置いた長期的な視点から捉える考え方です。非財務という長期的な企業価値向上のための役割を経理財務部門が担うことが、経理財務部門の将来の役割ではないかと、私自身強く思っています。
もう一つ、企業価値の毀損防止も企業価値向上を支える大きな要素です。企業の価値を著しく下落させる不正会計等について、従来は監査法人や内部監査による事後的チェック、いわゆる発見的統制が主でしたが、これからは予防的統制に経理財務部門が貢献すべきと企業のマネジメントからも期待されています。経理財務部門はすべての数字を見ることができるのだから、例えば最新IT技術であるデータアナリティクス技能やAIなどを駆使して異常を発見し、不正を起こさせないようにマネジメントをサポートする役割を期待されています。2013年に内部監査協会(IIA)から発表された「3ラインディフェンス」モデルでも、経理財務はガバナンスのマネジメントラインに入っており、企業のガバナンスに貢献することが期待されています。

―企業価値が棄損しないためにも経理財務部門は積極的にガバナンスに関与すべき。

そうです。例えば、IFAC(国際会計士連盟)などでは、将来のCFOは企業内におけるビジネスパートナーとして、Value enabler(価値を実現する者)になるべきと言われており、ファイナンスのトップの呼称を「CFO 」から「C V O(Chief Value Officer)」にする方がいいのではないかと提言しているくらいです。
経理財務部門は、数字を見るだけでなく、企業価値向上を考えれば広くガバナンスやリスクマネジメントに主体的に関与すべきです。そのためには、経理財務人材に高い倫理観が必要です。日本公認会計士協会では、企業に所属する組織内会計士に対する「倫理基準」が強化されました。具体的には、「不法行為への対応」という項目が追加されています。これは、経理財務項目の不法・不正行為だけではなく、それ以外の不法行為についても、発見した場合には、内部通報などの何らかのアクションを要請するものです。これは、日本だけではなく、会計士業界における国際倫理基準においても制定されており、経理財務部門が会計という専門領域だけではなく、企業のガバナンス全体に関与していくという方向性を示したものです。企業価値を向上させる、棄損させないために、経理財務はどんなアクションをとり、どういう役割を持つべきか、真剣に考えるときにきていると思います。

危機感をもって役割を創造していく

―現在の経理財務部門が強化すべき部分は何だとお考えですか。

「企画力」だと思います。企画力とは簡単に言えば、物事をつくっていくことです。後追いではないクリエイティブな仕事です。将来、経理財務部門が生き残っていくためには、企業価値に貢献するガバナンス的な仕事や企業価値を数値化するようなクリエイティブな仕事をする必要があると思っています。集計を中心とした業務は、近い将来確実に自動化され、省力化が進むことは間違いないので。

―経理財務が今、いちばんなすべきことは何でしょうか。

改めて、「将来の経理財務部門の役割は何か」を真剣に考えることだと思います。そのためには、「このままでは経理財務部門がなくなるかもしれない」という危機感を持つこと。それがスタートだと思います。
自動処理化が進み、「真面目」に「正確」な処理が売り物であった経理財務部門は、確実に省力化が進み、「真面目」に「正確」が売り物でなくなります。そのとき、経理財務部門の在り方を再構築していくには、既成概念を捨て去り、すべてをゼロベースで考える発想の転換が必要です。「真面目に言われたことをこなす」業務から脱却するには、管理職にある方々が、「一定の時間会社にいて、真面目に机に向かって、真面目にPCを打っている。それで給料がもらえているのだ」という価値感から脱却し、「どこに貢献するか」を考える必要があると思います。
実は、若い人ほど、より何かに「貢献」し、「自己承認欲求」を求める傾向にあります。我々昭和の世代も自己承認欲求は当然ありますが、前述のように「真面目にやっているから、その分給料をもらっている」ことで納得してきた。ここに価値観の大きなギャップがあります。若い人は真面目にやっているだけでは、「会社にも、社会にも貢献していない。自分の存在意義がないのではないか」と思うのです。仕事に対する理解を促すだけでなく、存在意義や役割を感じられる体制にしていかなければ、自己承認欲求は満たされない。我々がITを推進していく一つの理由に、古いオペレーションスタイルが、「なんでこんな無駄なことをやっているのだろう」と、デジタルネイティブの若手の自己承認欲求を棄損する恐れがあるからです。貢献意識の高い貴重な人財を失わないためにも、危機意識をもって企業価値向上に貢献できる経理財務を目指していただきたいと思います。

―本日はありがとうございました。